■ 鉛・低濃度PCB、無害化処理へ 安全・効率処理に課題
ペイント&コーティングジャーナル CoatingMedia Online-2016年9月12日
橋梁シンポジウムが2日、東京・日比谷図書館スタジオプラスで開催された。テーマは「橋梁塗膜処理適正化を考える」で、自治体や高速道路会社など約360名が出席、テーマへの関心の高さをうかがわせた。主催は浜田。
橋梁塗り替えのネックとなっている旧塗膜に含まれる鉛や微量PCB(ポリ塩化ビフェニル)問題はその処理体制の遅れから、国土交通省管轄だけでも塗料クズ (旧塗膜)がドラム缶1万本も滞留している状況にある。その一方で国は残留有機汚染物質に関するストックホルム条約を締結し、PCBに関して平成37年ま での使用全廃、平成40年までの適正処分を決めている。
これを受けPCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法の一部が改正され、PCB廃棄物処理基本計画が閣議決定された。改正法の柱は事業者に高濃度 PCB廃棄物の処分を義務付ける他、報告・立ち入り検査権限を強化。改正法は公布日(平成28年5月2日)から3カ月以内で政令として発効する。
一方旧塗膜に含有される低濃度PCB廃棄物処理に関しては、PCB特措法の制定以降に問題が発覚したため、環境省担当者は「今後の課題として取り組む」との姿勢だ。そのためまず①使用実態の十分な把握②処理体制が整備の途上にあり、その充実・多様化を図るとしている。
橋梁塗装として塩化ゴム系塗料が使われたのは1966~1972年と特定されているが、塗料の可塑剤としてPCB含有物が配合されている。しかし一部塗料 メーカーでは配合されていないケースもある。しかもPCBは210種ほどあるといわれ、そのリスクレベルはゼロに近いものから毒性の高いものまであり、リ スクチェックが精査されていない。更にこの問題を複雑にしている要因は、橋梁の発注者や自治体などが橋梁塗り替え管理資料などを処分して保管していないと ころにある。国交省も実態把握を十分できていない点を認める。
最近、一部の顔料に非意図的にPCBが含有されていることが分かった。このため防食塗膜がPCBに汚染されている橋梁は1966~1975年に塗り替えされたものにまで広がっている。
平成25年6月、環境省は「低濃度PCB廃棄物収集・運搬ガイドライン」を策定、「受注者が保管事業者となって適切な処理方法の検討を行った上、監督職員と協議し適切に処理を行う」と定めた。
その一方で低濃度PCBの無害化処理業者の認定が進み、国が認定した焼却業者は22社、自治体認可業者2社、洗浄/分解・洗浄業者はそれぞれ8社と1社に達している。
長さ300mの鋼橋に含まれている有害物質は鉛で約5,000kg、その他クロム、PCBが微量含有されていたケースがあり、クロムやPCBがどの程度含 まれているのかチェックする必要がある。低濃度PCBの処理の基準はPCB0.01mg/kgで、分析データの整備が前提となる。
現在、15m以上の鋼橋が全国に約7万橋ある。国としてはこのうち7割を重防食塗装で塗り替え、防食LCC(ライフ・サイクル・コスト)の大削減を図りたい考え。このため鉛、PCBなどの有害物質を含む塗膜の安全な除去と処分の体制づくりが急務となっている。
コスト問題など課題山積
シンポジウムでは製品評価技術基盤機構理事長(東京大学名誉教授)の安井至氏が有毒物リスク管理の歴史的背景を語り、「日本の対応はバンソウコウ型で、こ れでは抜本対策とはならずコスト増大を招くばかり。PCBに関しても210種あるものの、リスクレベルの精査がされず一括して有毒物のような扱いをされて いる」と指摘し、この問題に一石を投じた。
また旧塗膜に湿潤化工法で対応しているインバイロワンシステムの臼井明社長は「鋼橋塗装のコスト削減方法のために開発され、50万㎡での採用実績がありま す。安全な塗膜除去方法のポイントは除去後の塗装適性で、塗料メーカー5社の協力により適正性を確保しています」と述べた。
環境省の産業廃棄物課の古市氏は法制度の概要を説明し、低濃度PCB廃棄物の処理に関して民間事業者(環境大臣認定の無害化処理業者または都道府県許可の 特別管理廃棄物処理業者)により処理されているが、低濃度PCB使用製品の実態把握がされていないと指摘。今後の課題を浮き彫りにした。それとともに処理 体制の充実と多様化を進める必要性を強調した。
三井金属鉱業・リサイクル営業部の太田洋文部長は同社の子会社である三池精錬のMF工法を解説し、鉛・PCBのリサイクルシステムによって「低濃度PCB 廃棄物の処理能力は30t/日、1回の受け入れ能力は120t/回あります。受け入れには含有分析が必要でPCBに関しては5,000mg/kgが基準 値、鉛含有濃度の受け入れ制限はありません」とアピールした。
出席者からは処理所へのアクセスやコスト問題の質問が出ていた。低濃度PCB問題の処理まで含めて道筋はできたとはいうものの、使用実態把握の遅れ、分析体制をどうするのか、事業者のコスト負担など課題は多く残されている。
ほんとうに課題山積~