東京新聞「国内各社、原発輸出を加速 相手国の安全性の担保なし」より転載
■国内各社、原発輸出を加速 相手国の安全性の担保なし
東京新聞-2016年1月26日
国内メーカーの原発輸出に向けた動きが加速している。二十五日には日立製作所が、参加が見込まれる日本企業に 向け、英国での受注案件の説明会を開催した。日本政府が後押しする原発の輸出だが、輸出先の国で日本並みの規制基準を本当にクリアするのか、現地での安全 性を担保する仕組みがないまま進めている。
日立が東京都内の英国大使館で開いた説明会には、約四十社が参加。日立は企業名を公表していないが、ゼネコンや鉄鋼メーカーなどが参加したよう だ。日立は二〇一二年に買収した英原発会社ホライズン・ニュークリア・パワーの建設計画を引き継ぎ、英国内で計四~六基を建設する見通しなどを説明したと いう。
国内の原発メーカーは日立のほか、東芝と三菱重工業がある。国内での原発建設は東京電力福島第一原発事故で困難となり、各社は海外に活路を求めている。政府も原発輸出を成長戦略と位置付け、安倍晋三首相らが積極的に原発のセールス外交を図っている。
東芝は一四年、英原発会社ニュージェネレーションを買収して英国での三基の建設計画を引き継いだ。傘下のウェスチングハウス・エレクトリックは米国と中国で四基ずつ着工し、インドでも受注の見込み。
三菱重工業はトルコで仏企業などと連合を組み、四基を受注することがほぼ決まった。安倍首相がトルコを訪れ、売り込んだことも要因になった。
メーカーの受注合戦が続く一方、福島事故の収束作業はいまも続く。この状況下で安倍首相は「福島の教訓を生かして、世界の原子力安全の向上に貢献する」と原発輸出を正当化する。安全性についても「(相手国が)日本の規制基準と同様でない限り輸出はしない」と強調する。
だが、原子力規制委員会が相手国の制度をチェックするような仕組みはない。重大事故の賠償責任や使用済み核燃料の処分先など、国内で解決されていない課題を相手国に押しつけることにもなりかねない。 (岸本拓也、伊藤弘喜)
■福島原発事故から間もなく5年 廃炉遠い高線量
東京新聞-2016年1月26日
東京電力は二十五日、事故から間もなく五年になる福島第一原発を日本記者クラブ取材団に公開した。当初に比べ ると、敷地の半分以上で放射線量が大幅に下がっているのが確認できたが、1~4号機建屋に近づくにつれ線量が跳ね上がった。作業員にとって厳しい状況が続 く。廃炉というゴールへの遠さを、あらためて痛感した。 (小倉貞俊)
二日前に降った雪が、日陰ではうっすらと残っていた。線量低下をアピールしたい東電の案内役に「この辺は普通に歩けます」と促され、普段着のコー ト姿で敷地内を一キロほど歩いた。二年前の取材時には、防護服に全面マスクというつらい装備を義務づけられ、ほとんどバスから降りられなかった。敷地をモ ルタルやアスファルトで覆うなどの対策が進んだ結果だ。
だが、1~4号機を見渡せる建屋西側の高台に向かうときには、やはり防護服と半面マスクの着用が必要だった。
かつてゆがんだ鉄骨の山だった3号機上部はがれきがなくなり、1号機では建屋カバーの解体に向けて遠隔操作の巨大クレーン車などが取り囲んでいた。
建屋周りはまだがれきや倒壊した補助建屋などが無残な姿で残っていた。高台で線量は毎時七〇マイクロシーベルト(〇・〇七ミリシーベルト)あり、こんな場所にずっと立っていれば年間六〇〇ミリシーベルトも被ばくしてしまう。
バスで高台から建屋周辺を通り抜けたが、2、3号機付近はモニタリングポストが毎時三五〇マイクロシーベルトを示していた。わずか十日前後の作業で、被ばく線量限度(五年間で一〇〇ミリシーベルト)の一年分を超えてしまう値だ。
ボルト締め型タンクから溶接型への置き換えは「やっと一割ほど終わった」(担当者)ばかり。昨年はタンクからの転落死亡事故も起き、タンクには大きな赤字で「安全帯の装着を確認せよ」などと印字されていた。笑顔であいさつを返してくれた作業員たちの無事を祈った。