■原発事故の農林業系廃棄物 処理の市町村は約30%
NHK-2015年3月6日 動画あり
東京電力福島第一原子力発電所の事故で発生した放射性物質を含む牧草などの「農林業系廃棄物」について、処理を行っている市町村は、福島県など5つの県でおよそ30%にとどまっていることが、NHKの調べで分かりました。
処理が進まない理由について、自治体は焼却に住民の理解が得られないことなどを挙げていますが、牧草などは保管の長期化で腐食が進み、処理が一層難しくなるおそれがあると指摘されていて、農家などからは早期の処理を求める声が上がっています。
こうした農林業系廃棄物が多いとされる岩手、宮城、福島、栃木、群馬の5つの県について、NHKは、県や市町村を通じて保管と処理の状況を調べました。
その結果、農林業系廃棄物が発生、または保管しているとした137の市町村のうち、8000ベクレル以下の廃棄物の処理を行っているのは、およそ30%にあたる41の市町村、このうち処理が終了したのは8つの市町村にとどまりました。
処理が進まない理由について、県などは焼却や最終処分に住民の理解が得られていないことや、処理施設が確保できていないことなどを挙げています。
8000 ベクレル以下の農林業系廃棄物の量は、「データを精査中」としている福島県以外では、岩手県はことし1月時点でおよそ3万9000トン、宮城県は去年11 月時点でおよそ4万7000トン、栃木県は去年9月時点でおよそ5万トン、群馬県は去年9月時点でおよそ2万1000トンなどとなっています。
こうした農林業系廃棄物は、今も農家の敷地などに一時保管されたままで、保管の長期化に伴って腐食が進み、今後焼却などの処理が一層難しくなるおそれがあると指摘されていて、保管を続ける農家などからは早期の処理を求める声が上がっています。 一時保管を続ける農家は 東京電力福島第一原子力発電所から70キロ余り離れた宮城県白石市では、放射性物質を含んだ牧草や堆肥などが、農家の敷地などでいまも一時保管されています。
このうち、市が処理を行うとされている放射性物質の濃度が1キログラム当たり8000ベクレル以下の廃棄物は、去年10月の時点で牧草が700トン余り、堆肥が1500トン余りあるということです。
市は、こうした農林業系廃棄物を一般のごみと混ぜて焼却する方針ですが、ごみ処理を広域で行う周辺の自治体との調整が必要で、開始時期は決まっておらず、一時保管を続ける農家からは早期に処理するよう求める声が上がっています。
白石市で酪農を営む佐久間純一さん(66)は、この4年間、8000ベクレル以下の牧草を敷地内で一時保管していて、こん包された牧草の数はおよそ100個、重さにして50トンに上るとみられるということです。
牧草を包んでいるシートは、おととし、市がまき直しましたが、その後も劣化やイノシシなどによるとみられる被害で、穴が開いてしまうこともあるということです。
さらに、牧草は保管の長期化に伴って腐食や液状化が進んでいるとみられるということで、佐久間さんは今後、輸送や焼却の処理が一層難しくなるおそれがあると懸念しています。
佐久間さんは「原発事故から4年がたっても当時と状況は変わっていない。結局、廃棄物は末端の農家が抱え込んで置きっぱなしにされている。中がどんどん腐ってくると手が付けられなくなるので、一刻も早く片付けてほしい」と訴えています。 国の対応は 放射性物質を含んだ農林業系廃棄物のうち、濃度が1キログラム当たり8000ベクレルを超えるものは「指定廃棄物」として国が最終処分場を建設するなどして処理します。
これに対し、8000ベクレル以下のものは、市町村などが一般の廃棄物として処理すると定められています。
環境省では、市町村が行う農林業系廃棄物の処理を加速させるため、焼却や埋め立て処分などにかかる費用の半分を国が補助する事業を平成24年度から始めています。
環 境省によりますと、これまでに補助事業を活用したのは、岩手・宮城・福島・群馬の4つの県の15の市と町にとどまっています。また、環境省は、廃棄物の量 が多い福島県では、国が処理する指定廃棄物と、市町村などが処理する8000ベクレル以下の農林業系廃棄物などを、いずれも焼却できる施設を新たに3か所 建設する計画ですが、一部では予定地周辺で住民の反対も起きています。
環境省の室石泰弘参事官は「8000ベクレル以下の農林業系廃棄物について は、基本的には通常の廃棄物処理と同様に安全に処理できると考えている。国としては、市町村に対し、費用や技術的な面での支援、それに住民の方々とリスク コミュニケーションを図っていくうえでの支援を行っていきたい」と話しています。